2017.02.07

今夜、彼と「そういうこと」になっても、いいんだよね?:よろず女子百景(13)


ゆっくりと進む恋こそ、これから始まるドキドキ感がある。

今夜、彼と「そういうこと」になっても、いいんだよね?

映画館でアルバイトをしていた頃、少女漫画から飛び出してきたみたいな王子様をいつも眺めていた。スラッとしていて、優しくきれいな顔立ちの、映写担当の男の子だった。

そんな職場で忘年会があった年末。
2次会が終わってみんな散り散りと帰る中、「うちに来る? 歩いて30分くらいかかるけど」と彼を誘ってみた。ちょっと少し前に映写室へ掃除機を借りに行った際に、彼が思いのほか親切に対応してくれて、私と彼の距離はグッと縮まっていただのだった。

そうして、実は30分どころじゃなくって小一時間ほど掛かる寒い夜の道を、お互いの好きな映画や彼の趣味の読書のことなどいろんなことを話しながら、並んで一緒に歩いて帰った。途中、彼が「歯ブラシだけは買って行きたい」と言うのでコンビニに寄って。

「歯ブラシだけは」って、もしかして彼、今夜“そういうこと”考えてる!?
……とじぶんから家に招いておきながら勝手にドキドキしたりして。


そうして家に着いたのはもうかなり深夜だった。

狭い私の部屋で、座る場所はベッドくらいしかスペースがなくて。お互いの近い距離感に戸惑いながら、本棚から彼の好きそうな本を取り出してふたりで覗き込んだりした。

このまま、彼に恋してもいいよね?
だから今夜、彼と“そういうこと”になっても、いいんだよね?

……そう思いながらも、不安に感じてもいた。
まだお互いの気持をしっかり確かめ合ったわけでも、「付き合おう」と彼から言われたわけでもない段階で、そういう関係を結んでしまうことに。

けれど、私の心配をよそに彼は歯ミガキだけはしっかりして、ふたりして狭いベッドでその夜はただ眠った。


そっか、と少しさみしい気もしたけど、ホッともした。彼がじぶんを大事にしてくれていると思えたから。

ゆっくり。この恋はゆっくりがいい、彼とは。

そんなこんなで、年明けに初詣に一緒に行く約束をして、”これから”始まる彼との恋に期待しながら、静かで幸せな眠りについたのだった。

彼の呼吸を鼻先に感じながら、手だけはギュッと握って。(大島智衣/脚本家、エッセイ・コラムニスト)

(ハウコレ編集部)

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